一年以上愛用していたSONYの携帯電話、SO505iSを明日機種交換することになった。会社の帰り道、歩きながらメニューを操作し、ひとつひとつデータを消去して、痕跡を消していった。なじむように設定した内容を消していくのは、どこか気のひける行為だけれど仕方がない。だんだんよそよそしくなる携帯を見ながら、2001年宇宙の旅で、ボーマンがHAL9000のユニットを外す場面を思い出していた。

最初に着信履歴と発信履歴を消去して、それからメニューをたどって、ひとつひとつ設定を消していき、最後に電話帳を消した。それでもiモードのブックマークやURLの履歴が残っていたので、ひとつひとつ消去して残っているものに気がついた。携帯本体の伝言メモだ。電話帳やメールとは違って、伝言メッセージは他の媒体に保存することができない。機種交換で本体を引き渡すまでにはどうしても消さなければならない。消してしまえば二度と聞くことはできない。

今までも何度も消そうとして消せないで残っていた6月29日に録音されたそのメッセージを聞きながら、そう言えば他にも消していないメッセージがあったと思い出した。以前使っていたマイクロカセットを使った留守番電話に実家の母が残してくれたメッセージだ。電話機をIC録音タイプに変更し、僕はマイクロカセットを再生できる装置を持っていないから聞き返すことができないのだけれども、そのカセットだけは今も保存している。メッセージを思い出せないし、とりあえず今は聞くことができないけれども、それを聞いたときの気持ちは心のどこかに確かに記録されている。

新しく使うことにした電話はD901iだ。スペックの面ではあらゆる部分で505iSとは比べものにならないけれども、きっと僕は505iSのことを思い出して寂しくなるような気がする。仕方のないことなんだけれども。