連載「安らかな夜を迎えるために」の第6回が掲載されました。

前回の記事で、依頼の段階でつまずくケースについて紹介しました。それらは依頼したい内容に問題があるため、サポートセンター側として対応を開始することができない場合と考えることができます。しかし、依頼の内容に問題がなかったとしても対応に着手できない状況が存在します。さて、サポートセンターの対応範囲内の依頼で、内容が明確で、作業に必要な情報も揃っているのに、対応に着手できない状況とは、一体どのような状況でしょうか?

答えは、依頼元とサポートセンターの間で調整が必要になった場合です。具体例をあげると、作業の優先度や期限の指定、対応する費用(稼働)の条件、あるいは現地で作業して欲しい等の要望などがあると、対応について、調整が始まります。その調整が終わるまではサポート技術者は割り当てられず、作業は始まりません。

調整が始まると、サポートセンターの中で何が起こるかというと、関係者が集まり協議をします。ここで関係者とは、受け付け業務の担当者およびマネージャー、サポートチームのリーダーおよびマネージャー、顧客ごとの対応責任者(定められている場合)です。こうしたメンバーが呼び出されて、依頼の内容を見ながら対応について議論します。判断の基準は、いろいろありますが、特に重要で、そして(おそらく)依頼する側にあまり認識されていないのは、「サポートセンターとして中立性、公平性を保つ」ことです。サポートセンターが特定の依頼元に便宜を図ったり、特定の依頼を優先したりすることは許されないのです。

サポートセンター内の議論については、依頼元に議事録が送られるわけでもなく、依頼元には知ることができません。サポートセンターの中にいて、この調整を日々行っている立場からの私の助言は、依頼の際にはサポートセンターの意見に素直に耳を傾け、どうしても必要なこと以外は頑張らないことです。そう書くと、「サポートセンターの言いなりになって妥協(我慢)しろということか?」
と思われる方があるかもしれません。そうではないのです、ということについて、次回説明します(それまであなたのシステムが平和でありますように!)。

連載「安らかな夜を迎えるために」の第5回が掲載されました。

前回の記事のおさらいから始めます。あなたがサポートセンターに送った依頼は、サポート技術者にアサインされ、その技術者の検討が終了すると、その結果が依頼に対する回答して返却されます。早く結果を受け取るために、依頼者であるあなたが行うべきことは、

  • サポート技術者のアサインが早く行われるように心がける
  • サポート技術者が効率よく内容を検討できるように心がける

の2点です。ここで、「心がける」となっているのは、それらはサポートセンターの内部の処理であり、依頼する側では直接働きかけることができないためです。

技術者のアサインが早く行われるようにするためには、できるだけ早く依頼をすることです。しかし、ここでつまずくケースを多く見かけます。典型的な場合としては、

  • 依頼内容がサポートセンターの対応範囲ではない(たとえば、OSSのサポートセンターに商用製品のことを質問する)
  • 依頼の内容が文面から明確でない(ここで依頼の内容とは、「現在の状況」「(依頼側が認識している)問題の内容」「サポートセンターに頼みたい作業や欲しい結果」などの説明です)
  • 必要な情報が不足している(必要な情報は依頼の内容により異なりますが、基本として対象となるソフトウェアのバージョン、使用しているパッケージで、再起動などの原因解析を依頼するのであれば、ログファイル等)

があります。こうした場合に何が起こるかというと、最初の場合には「申し訳ありませんが、サポート対象外なので、わかるところ(正しい相手)に依頼ください」というメッセージが送り返されて終了です。2つめと3つめについては、サポートセンター側から確認や情報提供を求められることになります。

個人と個人であれば「確認」は電話やメールで簡単に(短い時間で)行えます。しかし、サポートセンターとのやりとりは、そうはいきません。受け付けであれ、確認であれ、調査であれ、あなたの依頼に関する処理のすべては業務フローに基づきスケジュールされるので、サポートセンターとのやりとりは高い時間的コストを伴います。一往復ですまず二往復となると、問題解決に深刻な影響が生じます。

サポートセンターの「中の人」にとって、良い依頼と悪い依頼の違いは明確ですが、その情報(評価)は依頼元に返却されることはありません。サポートセンターから、依頼内容の確認や情報提供の依頼を受けたら、「ああ、失敗した。貴重な時間を失った」と思ってください。「良い依頼」とは要するに、サポート担当者がすぐに対応に着手できる依頼ということです。そうした依頼を受けると、「この人は、わかってるねぇ」とうれしくなります(それを伝えることはできませんけれども)。

連載「安らかな夜を迎えるために」の第4回が掲載されました。

サポートセンターに依頼をしてくる人で、回答を急いでいない人は基本的にいません(急いでいるのが自分だけだと思わないでくださいね)。回答に要する時間は、難易度など質問の内容によりますが、実はそれだけではなく、同じ質問であっても対応時間が大きく変わる場合があります。どうすれば少しでも早く回答をもらえるかは、読者の方にとって重要な関心事と思いますので、本コラムの中でもとりあげていきます。

さっそく門外不出の秘密の解説を・・・といきたいところですが、その前に準備が必要です。対応時間の短縮、効率化について説明するためには、サポートセンター内のプロセス(処理内容)の理解が前提となります。ところが、サポートセンターは、質問や依頼を入力すると結果が返ってくるブラックボックスであり、サポート業務を経験したことのない方には中の様子が想像しにくいでしょう。そこで最初に、サポートセンターとはどんなところなのか、から始めます。

サポートセンターの特徴として、以下があげられます。

  • どんな依頼がくるか、内容や難易度は事前に知ることができず、予想もできない
  • 依頼ごとに、対応に必要な時間は異なり、内容を確認するまでは予想できない
  • そうした依頼を限られた人数で対応しなければならない

サポート技術者の人数を増やすほど、サポートセンターとして対応できる範囲は広がり、ひとりひとりの対応する時間や負担は減りますが、費用が増加し運用が苦しくなります。現実には、対応する範囲と契約数などを考慮して、体制を組み、その体制でやりくりするのが普通でしょう。

そんなサポートセンターで働くサポート技術者の仕事は、

  • 案件のディスパッチを待つ
  • 担当した案件について調査/検討を行い回答する

の繰り返しです。

回答を早く得るということは、自分の依頼する内容の担当者へのディスパッチを最適化することに他なりません(オペレーティングシステムの知識を持たれる方であれば、スケジューラーのことを思い出されるかもしれません)。以上を前知識として、この後の回で具体的な最適化の手段(あるいは戦略)について取り上げていきたいと思います。

連載「安らかな夜を迎えるために」の第3回が掲載されました。

サポートセンターにいると、しばしば、サポート担当者を困らせる依頼者を見かけることがあります。今回はよく見かけるパターンについてご紹介します。

「回答を信用しない依頼者」
サポート技術者も万能ではありません。わからないこともありますし、間違った判断をすることもあります。しかし、少なくとも「依頼者にとって最良と思う内容」を回答しているわけです。それに対して、「本当ですか?」と聞かれるとサポート担当者は困ります。
「自説を説明する依頼者」
発生している問題や不具合について、「これはおそらく・・・」とか「自分が思うには・・・」と自分の意見を書いてある依頼を見かけます。好意的に考えれば、サポート技術者に参考情報を提供していると考えられなくもありませんが、サポートセンターは依頼者の仮説を確認するところではありません。特に具体的な根拠や理由もなく「・・・という気がします」と言われても、何と答えて良いかサポート担当者は困ります。
「上から目線の依頼者」
サポート担当者は、依頼者を助けることを目的としています。つまり、依頼者の仲間であり味方です。そのサポート担当者に対して、上から目線や高圧的な調子で連絡をしてくる依頼者があります。問題を抱えて困っているから依頼してきているはずなのにどうしてこんな言い方になるのかなとサポート担当者は不思議に思い、困ります。

他にもまだまだありますが、きりがないのでこのくらいにしておこうと思います。でもご安心ください。サポート担当者は、どんな依頼に対しても自分達のできる最善を尽くします。それが私たちの仕事ですから。

連載「安らかな夜を迎えるために」の第2回が公開されました。

サポートセンターでは、依頼ごとに ID を割り当て、情報を管理しています。その内容は、サポートを行うために必要な情報(たとえばシステムの構成や使用しているプロダクトのバージョンなど)と依頼元に関する情報の組み合わせです。

サポートセンターにとって、過去の対応履歴は文字通り、宝の山です。NTT OSS センタは 2006 年に設立されましたが、現在に至るまでの依頼と対応履歴が瞬時に確認できます。依頼に書かれているエラーメッセージについて、過去の問い合わせを検索するというような使い方の他に、その依頼元から過去にどのような依頼が来ているのか調べるということもよく行われます。それはちょうど病院のお医者さんが、患者のカルテを確認するようなものです。過去の問い合わせ履歴から、システム(患者)の概要や、過去のトラブル(病気)、よく問題を起こす部分(弱点)を確認し、サポートセンターとのやりとりの記録から、依頼者の考え方や技術的スキルを参考にして対応します。
依頼してくる側は、発生した問題点で頭が一杯かもしれませんが、サポートセンターの中では、点ではなくて過去からつながった線として見て、対応を行っているのです。

頻度は高くありませんが、たまに過去に受けたのと同じ内容の依頼を受けることがあります。そんなとき、サポートセンターの担当者は、「きっと忙しくて覚えていないんだろうな」と思いながら、過去の依頼履歴を参照、あるいは複写して回答します。過去の対応の中で、助言をしているときには、「助言したけど試してもらえなかったんだな。残念だな」と思いながら、再度同じ助言を繰り返します。
そんなふうにして作成されていると思って読み直すと、過去の回答の中に今まで見えていなかったものが見えてくるかもしれません。

第1回「kdumpノススメ」

自分の書く分はシリーズ名と毎回のタイトルをつけようと思っていたが、諸般の事情により「コーヒーブレーク」という整理になってしまった。これによりシリーズ名をつけられなくなったのが少し残念だ。また、毎回内容に近い動画を選び紹介することを提案したかったが、素直な心で提案したところ「なぜそれが必要ですか?」と聞かれたので、あきらめた。でも、せっかく選んだものがあるので、ここに記事として残しておこうと思う。

日々送られてくる依頼を見ていると、書き方は人によりそれぞれです。中には、サポートセンターの利用になれていないのか、書き方を迷った形跡が見受けられることもあります。そこで、今回は依頼の文章の書き方について説明しようと思います。

サポートセンターへの依頼は、サポートセンターのメンバーにとっては、自分達の仕事の定義、よりどころであり、もっとも重要な情報です。依頼の内容は、案件を管理するシステムに登録され、案件が解決(クローズ)するまで、担当するメンバーに参照されますが、その読まれ方はメールなど通常の文章の読まれ方とは少し異なります。具体的には、私たちは依頼の中から、サポートに必要な情報を抽出して読み取ります。ここでサポートに必要な情報とは、問題の説明(トラブルや疑問の定義)であり、現在の状況であり、依頼の内容などです。それ以外の情報は、読み飛ばします、というか目に入りません。毎日毎日、新たな依頼を読んでいると、この読み飛ばしがほとんど意識することなく行えるようになります。

そのような読まれ方をするということは、依頼の書き方は(実は)本質的に重要ではなく、必要なことが含まれていさえすれば良いことがわかります。というと、「では必要なことは何か」と思われるかもしれませんね。残念ながら、それは状況により異なるので、一概には決まりません。それについては次のように考えてみてください。
あなたがサポートセンターに相談しようと思ったということは、あなたは何か困っていることか、確認したいことがあるはずです。だから、それが何かを自分に問いかけて、その結果を素直に文章にすれば良いのです。
わかっていることはわかっていることとして、わかっていないことはわかっていないままで大丈夫です。わかっていないこと(確認していないことの存在)はそれ自体情報であり、わかっていないことの中から確認すべきことを考えるのは、サポートセンターの仕事です。

久々の連載「安らかな夜を迎えるために」

2012年4月からの職場であるNTT OSSセンタでのサポート業務の経験を、NTTデータ先端技術のWebページとして掲載いただくことになった。なんだかすごい久しぶりだ。

TOMOYO Linuxのメインライン化から5年、私たち(原田、半田)は現在、品川にある NTT OSS センタで NTT 関連会社の OSS を用いたシステムのサポート業務に携わっています。サポート業務とは、具体的には、商用システムのトラブル対応、技術的な質問への回答などで、依頼者が抱える問題解決を支援するという仕事です。業務の性質上、どんな依頼がどのくらいくるかは、事前に予想できません。日々、たんたんと依頼を受けて、問題解決に向かう助言を行うことの繰り返しです。サポートは受動的な業務で、サポートセンターは、「治療」という行為こそ行いませんが、病院に通じるものがあります。

そうした受動的な業務を2年間以上続けていると、「これは前にも聞かれたぞ」とか、「事前に準備をしておけば避けられたのに」と思うこともしばしばです。サポートセンターの「中の人」として得られた知見や経験を、まだ問題を起こしていない人達にも活かしてもらいたいという気持ちが高まってきました。関係者の協力を得て、ここにささやかな情報発信活動を始めさせていただくことになった次第です。

トラブルが発生するとシステムの関係者は大変です。顧客への説明、原因の解明や対策の検討など対応に追われる姿を何度も見てきました。コラムのタイトル、「安らかな夜を迎えるために」とは、未然に防げる問題は未然に防ぎ、発生してしまった問題は速やかに解決に導けるように力になりたい、そうして安らかな夜を過ごして欲しいという願いを込めてつけました。

本コラムは、サポートに関する技術的な情報(担当:半田)とサポートセンター利用の心得(担当:原田)の組み合わせとして構成されます。どうぞおつきあいください。