不思議な出来事

帰宅の途中、会社を出て5分も歩かないところで一人の老人とすれ違った。そのまま行こうとしたらどうやら僕に話しかけている。立ち止まって顔を向けて話を聞くと、何やら早口でかつ訛りが強くてよくわからないけれど、どうやら埼玉のほうから東京に出てきたものの知り合いがいなくて困っていて、家に戻るお金がない、要するにお金を貸して欲しいと言っているらしい。手荷物はなく、服装はスポーツウェアのような服で失礼ながら裕福そうには見えないが、特に生活に困っているという様子でもない。とにかく言葉が聞き取りにくくて困ったがどうやら「500円」と言っているようなので、小銭入れを出して500円玉を1枚渡すと、「どうもありがとう。顔を覚えておくから」と言って頭を下げた。

東京駅に向かいまた歩き始めながら、今の出来事のことを考えた。人を疑いたくはないが、やはりそのまま受け取るには無理のある話だ。電車賃にしても500円では足りないだろう。でも、わざわざ500円が欲しくて嘘を(それもなかなか信じてもらえなさそうな)考えたとも思いたくない。僕は500円を粗末にするつもりはないが、渡した時点で返ってくるお金と思っていない。ただ、おじいさんの言葉が嘘であって欲しくない気がした。また、どこか自分の中にひっかかっる気持ちがあって、何故気持ちよくお金を貸してあげたと思えないのだろうと自分に尋ねてみた。嘘のようだが本当にあった出来事だ。