傘がない

先月、雨の日に会社に着いてから傘をたたもうとして異変に気がついた。傘がうまくたためない。見ると、傘の骨の先端部分が腐食して壊れている。修理不能だ。

その部分については特に意識していなかったけれど、もうかなり長いこと使っていた傘だから、ここ何年かずっと代わりの傘を買いたいと思っていて探していた。壊れた傘を買ったのは何年前かすら覚えていないほど以前のことだが、購入した場所は覚えている。横浜駅西口の地下街のGRCというお店だった。もうそのお店はなくなったけれど、傘の骨が折れて2度持ち込んで修理したことがある(2度目は無料で修理してくれた)。

壊れた傘は、70cmで6本骨、紺色のクロスで、柄は葡萄の木だ。別に誰かをいれるわけではないけれど、70cmの傘はとても広くておおらかで慣れてしまうと普通の60cmの傘では物足りない。本当に長いこと使っていたものだから、柄の部分の塗装が剥がれ始めてきたし、クロスは日光と風雨にさらされて色があせて、骨に至っては何度も修理をしたものだから、壊れる以前から細身にきれいにたたむことができなくなってしまっていた。壊れるのは時間の問題だった。

傘を買うのは別に難しいことはない。それがどんな傘でも良いのであれば。安い傘を買うのも簡単だ。モールに行くと1,000円もしないでちゃんと使える傘が売っている。でも、僕はずっと傘を買えなかった。買いたいと思う傘が見つからないから。僕が欲しい傘は70cmで、木製の柄で、紺か黒のクロスの気持ちの良い傘だけど、そういう傘はなかなか売っていない。少なくとも僕は何年もずっと探していたけれど、巡り会えなかった。こだわらなければ何でもないことだけど、何故かたいていのことにこだわらない僕は、傘や小銭入れや財布、定期入れといったものにはこだわりがある。自分の心を動かす何かがなければ、何かを感じられないものは持ちたくないのだ。当然、ビニール傘は死んでも買いたくないもののひとつだし、量産されていて誰でも持っているものは駄目だ。やっかいなのは、造りが良くて、他の人があまり持たないものでも満足できないことだ。傘であれば、丸善に行くと2万円くらい出せばそうした傘が買える。何度か店頭で手にとって、買い掛けただけれど、何か違う気がして買わなかった。

もう何年も待ったのだから今更適当に済ませたくない気がする。自分が探しているような傘があるのかわからないけれど、いつかそんな傘に巡り会えるかもしれないと考えるのはそう悪くない。