シスター

先週、通勤途中に不思議な経験をした。

いつもと同じようにJR東京駅、9番ホームで東海道線を下車して、駅の構内を歩いていたら、せわしく歩き交う人々の中に、立ち止まっている一人の女性がいた。年齢は50代だろうか、左右の手に、腕に固定するタイプの杖を持ち、身体を支えている。服装はいわゆる「シスター」そのものだ。


一度横を通り過ぎたが、気になったので、人の流れに逆行してその場所に戻り、「何かお困りですか?」と声をかけた。すると、こちらをまっすぐに見ながら、「ここにはエレベータはないんですね」と言う。横を見上げるとエレベータの記号があるので、「そちらのほうに行けばあるようですが」と言ったが、「ええ、でもここからエレベータに乗るまでには、少し歩かないといけないみたいなので」と返事がきた。確かに、記号のある方向を見ると距離がある。人混みの中を両手の杖をたよりに歩くのは大変だろう。「そのようですね」と答えると、「わかりました。大丈夫です」と言う。結局何の役にも立てなかったなと思いながら、「他にできることはありませんか?」と尋ねると、「ええ、大丈夫。ご親切にありがとうございました」という言葉だったので、「お気をつけて」と言って別れた。


シスターの言葉は大変明瞭だったが、それだけではなく、表情がとても明るかった。大げさな言葉で言えば、顔が輝いているような感じだ。特に印象的だったのは、その目で、じっとこちらを見つめる目に、普通の人にない何か、一種の力のようなものを感じた。一週間以上が過ぎた今、どんな顔だったかは覚えていないが、その表情の明るさと目の力は今も忘れられない。


話をしたときに感じたことがある。自分がシスターの目から何かを感じたように、シスターもまた自分の目の中に何かを見ていた。確かめようもないけれど、間違いがない。自分もまた確かに「見られた」。シスターは一体自分に何を見て、何を感じたのだろう。自分がシスターの目に見たものとシスターが見たものは同じなのだろうか?その謎が残された。