"something beautiful is dying", sweetest Elvis
昨夜BSで「エルビス・オン・ステージ特別編」という番組が放送された。帰宅してからこの番組を見始めたら途中でやめられなくなって、ほとんど最後まで見てしまった。
僕はエルヴィスが活躍していた頃、まだほんの子供だった。中学生くらいからは自分にとっての音楽はビートルズで、家にいるときはずっとNHKのFM番組をエアチェックしたカセットテープを繰り返し聴いていた。そのビートルズを愛する自分にとって、ストーンズは「敵」で、エルヴィスは日本で言えば演歌に近い領域に属するものとしてとらえていた。だから勿論レコードもテープも持ってはいない。ただ、彼が伝説的なロッカーであり、熱狂的なファンがいたこと、若くして亡くなったこと、ライブが初めて衛星中継で全世界同時に配信されたこと等は知っていた。
「エルビス・オン・ステージ特別編」は、ライブコンサートを中心にしながらいくつかのドキュメンタリー映像を挿入したもので、冒頭部分はエルヴィスの日常の様子やコンサート前の会話や緊張を伝えていた。途中からはコンサートのライブで、多くの曲が流れた。
エルヴィスはおそろしく高いカラーとフリルがついた派手なジャンプスーツを着ていて、曲の終わりは毎回強烈なアクションをつける。それらは、やっぱり今見ると滑稽なのだけれども、いくつかの曲はどうしようもなく心にしみる。Love Me Tenderを歌いながら、エルヴィスはステージの最前列の熱狂的なファンの前を通り、一人一人に短いキスをする。それは当時も今もあまり行われないことだろうけれど、ライブ映像から伝わる雰囲気には違和感はない。2006年の今、もうすぐ忘れさられようとしているエルヴィスを見て、自分を動かすこの感情は何だろうかと考えてみた。それは、言葉にすると、「おおらかさ」、「あたたかさ」、「やさしさ」、英語で言うと"sweet"という言葉が何より近いかもしれない。
BSでは今日もエルヴィスの番組がオンエアされた。エルヴィスの家族のインタビューとハワイのコンサート。僕は番組を見て初めてエルヴィスが42歳で死んだことを知った。結末がわかっている話を読むように、デビューした頃からのエピソードを眺めた。ハワイのコンサートは昨夜の映画には時間、内容とも及ばなかった。昨夜の映画はドキュメンタリーで始まりコンサート終了のシーンで終わっている。カメラは幕が降りてから笑顔で楽屋に向かうエルヴィスを追う。その後ろにコーラスの女性4人が写っている。皆素晴らしいステージを終えて笑顔だが、コーラスの女性の一人は数歩、歩き始めると両手で顔を覆ってしまった。おそらくは感動が彼女をとらえたのだろう。他のコーラスの女性が両方からその肩を支え何か声をかける。そして映画は終わる。今日オンエアされたインタビューはエルヴィスの全盛時を通り過ぎて、薬物に依存し、太って動けなくなった時代もとりあげる。それはファンでない自分にとってもせつない。
番組を見たからと言って、僕はエルヴィスのファンになったわけではない。ただ、彼が残したいくつかの曲とステージは、本当に素晴らしいものであったと思う。それらは今の時代の誰もまねることができないものであり、おそらくはこれからも同じだろう。
映画のライブ映像は、6回分のコンサートの内容を撮影したものを編集したものだ。収録曲は以下の通り。
- That's Alright Mama
- I got a woman
- Hound Dog
- Heartbreak Hotel
- Love me Tender
- I Can't Stop Loving You
- Just Pretend
- The Wonder Of You
- In The Ghetto
- Patch It Up
- You've Lost That Loving Feeling (エルヴィスは観客に背中を見せてこの曲を歌い始める)
- Polk Salad Annie
- One Night
- Don't Be Cruel
- Blue Suede Shoes
- All Shook Up
- You Don't Have to Say Yo Love Me
- Suspicious Minds
- Can't Help Falling In Love With You (エルヴィスは「素晴らしいお客さん達だ」と言ってから、この最後の曲を歌い始める。まるで何かに憑かれたような熱唱だ)