ミネベアRT106, カンタービレ

ベースのゴムシートの部分を清掃してから、昨日洗濯したキートップを装着し始めた。改めて各キートップの形状の美しさを認識した。Realforceのキーと比較すると、Realforceではキートップの指を置く部分にきれいなRが切られていて、柔らかく美しい。キートップの面積はRT106のほうが一回り小さく、かつキーの側面の傾斜がRealforceより急であり真上からキーボードを見たときにキー間のスペースが大きい。またキーの刻印についてRealforceは大きな文字を使っているが、RT106はより明瞭で(「レーザーマーキング」と呼ばれる方法を用いているらしい)優美な書体(というのは個人差があるだろうけれど)が使われている。キーのストロークRealforceのほうが若干深く、押し込んだときの感触はRealforceはやや乾いて硬い感じがするが、RT106は静かにすっと受け止められる感覚だ。また、使っている状態では見えないが、RT106ではEnterやスペースキー、左のShiftキー等について、キーのセンターだけでなく針金により3点でホールドするようになっている。これはよく使われるキーについて、センター以外の部分を押下したときにもその力をキー全体に伝えるためだろう。最後に、キートップの表面の仕上げが、つるつるではなく、ざらざらでもなく、そっと指先をホールドしてくれる。これは材質と仕上げによるものと思われるが、残念ながらこの点においてはRealforceは足元にも及ばない。

今、キートップを装着したRT106を使ってこの文章を打ち込んでいるが、RT106ではキーを打鍵する際に出る音が独特の響きを持っており、大げさに言えば小鳥のさえずりを思い出させるようなところがある。僕は文章を考えながら、よく指をホームポジションに置いた状態で親指以外の指を浮かせて軽くキーを叩く、それが一種のリズムになる。Realforceではキーが沈み込むまでの耐加重がRT106より大きいようで、同じ力で同じことをしても何も音はしないでキートップは動かない。

カメラマンの田中長徳さんが、NikonのF4というカメラについて、「重いけれどよくフィルムが走るカメラだ」と評価していることを読んだことがある。この「フィルムが走る」という表現は、一眼レフを使ったことがない方にはわかりにくいかもしれないが、決してフィルムを送るモードラが早いということではない、しいて言えば「カメラが撮る楽しさを感じさせる」というところだろうか。僕は他に多数のカメラを持っているわけではないが、長徳さんが言いたいことがわかる気がする。そして、RT106は長徳さん風に言えば、「文章を入力させたくなる」魅力がある。いつか、時間がとれればRT106とRealforceの写真をここに掲載したい。

RT106はメンブレン方式のキーボードで、方式としては単純で、高度でも複雑なものでもない。しかし、実際に使用した感覚ではやはり素晴らしいキーボードだと思う。誤解のないように書いておくと、Realforceは決して悪くない。非常に安定しており、信頼できる。ハードなタイピングにも追随してくれる。価格に見合うだけのものだと思うし、最高峰のキーボードということは納得できる。ただ、Realforceはどこか工場で製造され、計算された「製品」を感じる。足りないものがない代わりに、必要以上のものは含まれていない気がする。RT106は、実際にはどうかわからないが、技術者により調整されて得られたひとつの到達点ではないかという感じがするし、そのキートップの造形と刻印の美しさはずっと忘れられないものになると思う。

キーの数は違うが構造は下記リンクにあるキーボードと同一のようだ。