手袋

朝東京駅の八重洲口の改札を抜けてしばらく歩いてから、手袋を網棚に置き忘れたことに気が付いた。

僕が使っている手袋はThinsulateと毛糸を組み合わせた黒い手袋で、僕の手の形になじんでいて、もう何年も使っている。やや大きくて、コートのポケットにはおさまらないからしていないときは(北海道では「はめていないときは」と言う)、手で持って歩くが、朝の東海道線でラジオを聞くために網棚に置いたことを思い出した。もうそれから戻ってもその電車が残ってないのは確実だったので、とりあえず会社に行き、手の空いたところで以前忘れ物をしたときに調べた東京駅の遺失物センターに電話してみた。

電話がつながってから自分が乗った電車と下車した時刻、乗り合わせていた車両を説明したところ、「遺失物センターには夜までは届かない。一応パソコンで調べてみる」と言われた。しばらくすると、「それだとは限らないが(というのを大変強調する)、手袋の落とし物がある。遺失物センターには大量に届くので、昼休みにでも駅の4番ホームに行ってみたら良い。あらゆる遺失物には番号がふられる、これからその番号を知らせる」というので、番号を控えてお礼を言って電話を切った。その番号は92829だった。

東京駅で毎日どのくらいの忘れ物があるかわからないけれど、遺失物センターに行ってしまうとあまりうれしいことにはならなそうな気がした。だいたい僕はそのセンターがどこにあるか知らないから、まずそれを探さないといけない。そこで昼休みにバスに乗って東京駅に行った。言われたのは4番ホームだが、どう考えても下車したホームのような気がしたので、実際に下車した8番ホームに行った。ドアをノックして駅員さんに事情を説明して、番号を伝えた。すると駅員さんはロッカーを開いていろいろ取り出して調べてくれたが、その番号は見つからなかった。だけど後ろから見ているとそれらしい固まりがあったので、見せてもらうとまさに自分の手袋だった。どうやら番号を聞き間違えたらしい。

駅員さんは備え付けのパソコンで何やら様式を印刷してくれて、それに住所と名前を書いて渡し、手袋は僕のところに帰ってきた。日中だったので温かく、手袋は不要だったけれど、手袋をつけたままで会社に戻った。