朝、山形県のH社のD氏から電話をいただいた。D氏は以前もきていただいたのだが、自分が忙しくて会えなかった。たまたま今日は時間がとれたので都合を伺ったところきていただきお話することになった。

11時に到着されると、ビルの会議室が予約で一杯だったので、永代通りを挟んで向かいにある喫茶店シンクライアントの件を中心に色々お話した。時計が11時45分くらいになっていたので、「もしお時間があれば」とお誘いした。大丈夫とのお返事だったので、一緒に食事をすることにした。僕は最近気にいっている小さなお店にD氏を案内し、その途中会社の近くの公園の桜をお見せしようと思った。

茶店を出て、永代通りの交差点を曲がる交差点の少し手前にさしかかったとき、僕は「ところでMさんはその後お元気ですか?そろそろお子さんができる頃ですよね」と声をかけた。

D氏は、歩きながら僕の顔を眺め、また顔を正面に向けて、こう言った。「Mは亡くなりました」

僕はその言葉を聞いて、歩き続けながら、質問すら発することができなかった。ただ、もうMさんに会うことはないのだと、そのことが決定された事項であることを理解した。事情や理由がわかったとしても、取り返しがつかないことだということを理解した。僕とD氏は角を曲がった。道の先に公園の桜が見えたけれど、僕は、用意していた説明をすることができなかった。涙が流れてきた。「昨年の9月に交通事故で・・・」、D氏はぽつりぽつりと話してくれた。そうして、一言「連絡をしなくて済みませんでした」と断った。「そうだったんですか。まだ若かったのに」と答えたけれど他は何も言えなかった。僕たちは二人で黙って満開の桜が咲く公園を通り過ぎた。もう僕の目には桜は見えなかった。D氏は僕の右に並んでいたけれど、時々右のほうを向いて目をこすっていた。それだけで十分気持ちはわかった。