ネクタイ

朝いつものように日本橋さくら通りを歩いていると以前スーツを購入したお店に照明がついていた。開店の時間は午前10時で、僕がふだん通り過ぎる時間だと閉まっているのだがたまたまいつもより早く到着したらしい。

ワゴンにはいっているセールのネクタイを見ていると、お店の人が出てきてお話をした。安いネクタイは芯が弱くてすぐにへたれてしまうとか、このネクタイはボリューム感があって良いとか、違うネクタイは手元にとってよく見るとおしゃれだとか(細やかな色遣いをしているのだがよほど近くで見ないと気が付かないのだ)、そんな話だ。せっかくだから、ということで店内に入り、違うネクタイも見てみた。定価10,000円弱のお店のブランドのネクタイが半額になっている。素朴な心で「(ワゴンの安いネクタイと)どう違うのですか?」と尋ねると、生地が違うし手縫いという答えだ。言われてみると確かに縫製が非常に丁寧だ。結局お店のブランドのネクタイ2本とワゴンのネクタイ2本の計4本を購入した。

ネクタイを選ぶのはなかなか難しい。お店で良いと思って買ったものが、家に帰るとなんだかさえなく見えて一度もしないことがある。逆にそれほど気にいって買ったわけでもないものが、使っているうちにしっくりなじんで連日着用することもある。「ボリューム」のあるネクタイは、ちょっとゴージャスな気分になるが、単に生地が厚いだけだとやぼったくていけない。また、同じネクタイでも使っている間に好きになるものと変わらないものがある。

家に帰ってから、ネクタイを整理した。4本の新しいネクタイをネクタイハンガーにかけ、2本の古くなったネクタイを処分することにして、「長らくどうもありがとう」と心の中で声をかけて袋にいれた。毎朝起きるとまずシャツとネクタイを選ぶ。年に数日くらいだけど、「ああ、今日はこれが良い」と思えることがある。そんなときはとても気持ちが良い。あまり出歩かない自分でも誰かに会いたい気持ちになる。