そらまめ

自宅近くの市民生協は土曜日限定で、味菜卵という卵を安く(230円で)売っている。黄身が盛り上がっていて、ちょっとオレンジがかっていて、ゆで卵にしたりすると、見ただけで違いがわかる。味菜卵は、グルメでもない自分でもわかるくらい味が違う。

普段の価格がいくらなのか知らないけれど、「土曜日限定価格」を知ってから、なんとなく土曜日の朝に味菜卵と牛乳を買いに出かけるのが習慣のようになった。売り場を歩きながら、「そういえば納豆がなかったっけ」とか、「そろそろお風呂場の洗剤がきれるな」とか考えて、買い物かごに入れる。「本日限り」とか書かれているものがあると、チェックして安かったら買っておく。だから結構何がどのくらいするかわかっていたりする。ハウスバーモントカレーだと178円以下なら「買い」だ。

今日もいつものように買い物袋を持って生協に行ったら、入り口の近くに大きなだいが2つ置かれていて、その上に「そらまめ」が山積みにされていた。つめ放題で300円と書いてあって、ビニール袋が置いてある。

僕は特にそらまめを好きなわけでもなければ、その時そらまめを食べたかったわけでもない。ついでに言えば、そらまめがいくらするもので、このつめ放題が安いのか全くわからなかったのだけれども、「はい、どうぞ」と言わんばかりのその光景を見て、そらまめを袋に詰め始めた。袋が7割くらいになったところで、どこかのおばさんがそらまめをひとつ僕に手渡ししながら、「これは豆が2つ入っている。他のはひとつしかはいっていないのが多い」と言う。言われてみれば、そらまめのさやはぶあついから中身がわかりにくいけれど、確かにだいたいのものは豆がひとつしか入っていないようだ。効率が悪い。もっとも僕はそらまめにほとんど執着がないので、そのまま手もとのものをつめていた。

だいたい一杯になったので、そらまめ以外のものを買おうと思って店内に進もうとしたら、パイナップル売り場の近くに70歳くらいの背の高い男性が立っていてこちらを見ている。どうも僕がそらまめを袋につめているところを見られていたようだ。髪がきれいな銀髪で眼鏡をかけていたその男性は、僕と視線があうと、なんとも言えない顔で笑った。満面の笑顔だ。つられて僕も笑った。

僕はそのままそらまめの袋が入ったカゴを持って、買い物を続けたのだけれど、おじさんが何故笑ったかはよくわからないし、自分が笑った理由もよくわからない。ただ、何故かはうまく説明できないけれども、やっぱりちょっと面白い情景だったと思う。おじさんとは挨拶もしなかったし、名前も聞かなかった(当たり前だ)。もしかしたら、おじさんも夜家に帰って、おばあさんに「いやぁ、今日生協に行ったらね」なんて話していたりするかもしれない。