スイカを買わされた話

自宅近くのTSUTAYAで何枚かCDを借りて自宅に向かう途中、横から急に話しかけられた。なんだろうと思ったら、八百屋さんのおじさんで、「スイカを買わないか」と言ってきたらしい(八百屋さんだからね)。

この八百屋さんは僕が利用している市民生協の隣にあって、おじさんとおばさんの二人だけの小さな店だ。去年の夏、お店の外に並べてあるスイカが安かったのでつい立ち止まって見ていたら、おじさんが話しかけてきて、それ以来何個かスイカを買った。おじさんいわく、「本当においしいスイカは本当においしい」と言う。僕が安いスイカを買おうとしたら、「それはあんまりおいしくないよ」と言う。だから去年僕は、生まれてから一番高いスイカを買ったが、それは確かにおいしかった。

僕がおじさんの店で買い物をしたのは、スイカだけなんだけれども、それ以来おじさんにしっかり覚えられたようで、お店の前を通るときは必ず挨拶をする。でも今日はこちらが認識していないところ、横からいきなり声をかけられたわけだ。おじさんは500円と1500円のスイカを道路に出していたが、1500円のほうを指さして、「これ良いよ。おいしいよ。間違いない」と言う。真剣かつフレンドリーな表情で。

僕は別に今日どうしてもスイカを食べたいわけでも、買いたいわけでもなかったのだけれど、なにしろ素直な性格なので、そう言われると買いたくなった。しかし、TSUTAYAで手持ちのお金を使い果たしてして(入り用が多くて手持ち金額が少なくなっていたわけで、CDを何百枚もレンタルしたわけではない)、200円もなかった。「今、手持ちがないので、お金をおろしてきます」と言って、すぐ隣の市民生協に向かった。市民生協には、以前ATM端末が設置されていて手数料がかかるけれどこうした緊急?のときには便利だ。ところが、メインで利用している三菱東京UFJ銀行のカードを入れると「お取り扱いできません」と言われる。多分システムメンテナンス関連の作業だろう。しかし、このままではおじさんとの約束を果たせない。僕はおじさんの少し心配そうな表情を思い出して、少し焦った。時刻は午後6時を過ぎていたけれど、ゆうちょバンクのカードを入れてみたらこちらは利用できた。僕は1万円をおろして、市民生協を出ておじさんの店に戻り、スイカを買った。なんとなく太宰治走れメロスを思い出した。