「本番」力

読売新聞の「時代の証言者」で、最多安打の記録を持つ元野球選手の張本勳さんが連載をしている。「時代の証言者」は、日経新聞の「私の履歴書」と同じように各分野の方がその生い立ちを振り返るというものだが、それぞれの人柄があらわれていてとても好きな記事だ。

張本さんの連載11回目となる記事のタイトルは、「水原監督から精神教育」というもので、とても印象深いエピソードが書かれていた。

水原監督は、最終回である9回、守りの時に選手を交代させたと書かれている。打者であっても守備にも自信を持っていた張本さんは、それが不本意でしかも一度守備(のポジション)についてから交代させられるのが恥ずかしかったそうだ。あるとき、交代を命じられた張本さんは、ベンチに戻りグラブを蹴って暴れた、するとあとで水原監督は張本さんを呼んで、こう言ったそうだ。

「おまえの気持ちはわかる。でも、監督というのは守備についてから、勘が働くものなんだ。走者がたまり、そっちへ打球が行くんじゃないかと。これが勝負師の勘だ。おまえが将来、監督になったら、必ずわかる時が来る。」

水原監督は、就任した年にチームを前年の5位から2位にひきあげ、張本さんはそれを「紛れもなく、水原監督の力でした」と讃えている。1961年のことだ。きっと水原監督は不器用で、あまり選手の機嫌をとったりしなかったのだろう。でも、勝負に賭けていたのだ。指導者とはかくありたい。記事を読み、水原監督の勝負にかける思いに胸を打たれ、その言葉を40年以上たった今も胸にとどめている張本さんを素晴らしいと思った。

水原監督が言ったという「勘」は、野球のようなスポーツに限ったものではないだろう。TOMOYO Linuxのメインライン化という戦いの場においても、状況をどう読むか、読み取った状況からどう動くかは、理屈だけではない判断が必要になる。分野は違っても通じるところがある。