はじめてのデトックス

週末たまに買い物に出かけるららぽーと横浜店に気になるお店がある。名前は知らないのだけれど、いわゆる「酸素バー」で、カウンターに座って酸素を吸えるというお店だ。僕は、普通に空気で吸う酸素で満足していて、酸素バーに行きたいと思ったことはないのだけれど、お店の前にポスターが貼ってあって、それに激しく興味を惹かれた。

どんなポスターかというと、体重計みたいな形をしたトレーに足を浸していて、そのトレーに張られた水が黒く汚れているというものだ。思わず立ち止まって書かれていた説明を熟読したが、だいたいこんなことが書かれている。

  • 生活していると身体の中に毒素がたまる
  • 年齢が高くなると新陳代謝が低くなるから余計たまる
  • 毒素がたまるといろいろいけない(毒素だもんね)
  • このお店のサービスを利用すると、簡単に毒素を体外に排出できる(おぉ!)
  • とっても簡単で、30分間、足を専用のスペシャルな装置に浸すだけだ
  • お値段も値下げして、3,150円ぽっきり!

このポスターを初めて見た日から、半年、もしかすると一年くらいの間、ずっとそのデトックスのことが気になっていた。特に毒素がたまって困っている自覚はなかったけれども、ポスターで見た汚れた液の色と、科学的なようでいて全然科学的でない説明文句が頭に毒素のようにこびりついて離れないのだ。幸い、費用のほうは薄給の自分でもなんとかなるが、なんとなくお店にはいる勇気がでないでいた。

今日は別に記念日でもなんでもないけれど、「今日こそは絶対デトックスを受けよう」と思い、ららぽーとに着くやいなや(As soon as)お店にまっしぐら。お姉さんに、「で、で、デトックス空いてますか?」と声を震わせながら話しかけた。「はじめてですか?」「ええ、まぁ(「まぁ」がどうしたのか意味不明だ)」。では、こちらに記入をと言われて、名前の他に健康状態に関するチェックリストに記入した(チェックしながら、自分でも俺はかなり健康じゃないかと思った。さらに「こんな健康なのにデトックスするんだぜ、まいったか」と挑戦的な思いも一瞬浮かんだ)。

手続きを終えると店の中に案内され、どきどきしながらお姉さんの後に続いた。カーテンで個室のようにしきられていて、安楽椅子っぽい椅子と足を浸すトレーとそれにつながった秘密の装置が置かれている。他には何もない。自分は風俗にいったことがないけれど、風俗のお店ってこんな感じなのかな?と思ったりしたが、まじめに説明してくれているお姉さんの顔を見て反省した。

トレーは、本当に水がたまっているだけで、かなり大きめで、ジャイアント馬場とかでなければ大丈夫くらいの大きさがある。その真ん中に何か装置っぽいものが接続されていて、スイッチをいれると神秘的なあぶくが出てくる。その装置は細いホースのようなもので、デトックス装置の本体につながっている。装置本体は、スタート、ストップ、タイマーのスイッチと残り時間が表示されるくらいで、効能の割に異様にシンプルだ。

お姉さんに渡されたクロスで足をふいてから、足をトレーに浸す(お湯が張ってあって温かい)。「では、これから始めます」とスイッチが入れられると30分のカウントダウンが始まった。お姉さんは、「これを読んでください」と言って、神秘のデトックスの冊子を渡してくれた。冊子には、「毒素は身体に良くない(いや、そうだと思っていたよ)」ということや、「この装置はすごいんだぜ。イギリス製だ」とか、「私はこれで○○が直りました」的な体験談や謎の海外の記事がファイリングされていた。繰り返し読んだが、正直あまり得ることはなかった。これなら、もっと普通の雑誌を置いていてくれたらいいかもしれない。

5分か10分した頃から変化が起こってきた。水が汚れてきた。ポスターにあったよりもかなり濃くて汚い感じの茶色になった(ちょっとポスターには使えない感じ)。20分くらいになると、茶色というよりは黒色で、「もはや自分の足の指が見えない」くらいに汚れてきた。さらに「水面に何かわからない怪しい生体物質」が浮かんでいる(この写真は絶対にポスターに使えないだろうと確信した)。

まあ、ポスターやお姉さんの説明の通りなのだが、自分でそれを経験するととても不思議だ。だって、ただ足を水に浸しているだけで、頭に電極をつけたり、身体に注射針や点滴をされているわけではないのだ。この汚れはどこからくるのか?実はトレーの中央に仕込まれている装置に仕掛けがあって、あらかじめセットされた汚れが時間とともに水に溶けてでてくるようになっているのではないか?とかいろいろ考えたが、多分そんなことはなくて、やっぱり自分の身体から「何か(何だ?)」が出てきているに違いない。(本当に毒素なのか?)

ともかく無事30分が終わり、お姉さんが現れた。「2回目とかは、汚れ方が少なくなるんですか?」と聞いてみたところ、定期的に通うとそうなるらしい。(もしかすると、来訪回数や間隔も考慮するすごい仕組みなのか?)最後に真っ黒に汚れた水から足を抜いて、クリーナーで拭いて(残念ながらお姉さんが拭いてくれるわけではなくて、自分で拭かないといけない)おしまいだが、このとき身体にあるはっきりとした「変化」が現れていた。


足が、ふやけていたのだ!
(まあ、30分も水につけていましたから)

ということで、私の最初のデトックス大変、じゃなくて体験は終わった。お姉さんの説明によると、デトックス効果は約3日間持続し、その間は「毒素が排出されやすい身体」になっているらしい。パワーえさを食べたパックマン、パワーきのこを食べたマリオのようなものだ。「でも、自分のこの変化は、見る人にはわからないんだよな。ふふん」と屈折した優越感を抱き家に帰ったのだが、今のところ特に毒素が排出されている徴候はない。少し焦ってきた。