夏休みの宿題

仕事をしていたら分厚い封筒に入った郵便物が届いた。差し出し元は、7月29日に学生に講義を行った際の担当のM先生で、その名前を見て中身がわかった。

講演を行う前の日に、M先生からメールがきていて、「今回お願いしているご講演は、授業の一部なので出欠をとりますが、せっかくなので良ければ名前だけでなく感想も書かせましょうか」と書いてあった。講演、というか人前で話をするときに、アンケートなどの見返りを期待しないことにしている自分としてはどちらでも良かったのだが、断る理由もないのでただ「お願いします」と返していた。

「アンケート」は、A4に名前を記入する欄があるだけのもので、枠も罫線もないフリースペースに、「講義」を聞いた学生51名が一人一人が手書きで感想を書いている。学生にしてみれば、名前を書いて提出することに意味があるわけで、言ってみれば逆の意味で「見返りがない」。見返りがなく書かれた感想を読むのは、とても興味深かった。まず、意外に思ったのは、講義自体についてネガティブな意見が皆無だったことだ。よくオープンソースのイベントなどでは、「やる気がない」とかネガティブな意見をブログに書かれることがあるし、講演のアンケートでも何割かは「わかりにくい」「つまらない」などの感想があるものだが、それはなかった。こんなことは初めてだ。うれしいというよりも気持ち悪い。

内容については、割合として多いのは、2、3行当たり障りのないことを書いているもので、これはおそらく講義を聞いていなかったか、聞いても何も記憶や印象に残らなかったのだろう。それ以外は千差万別だが、繰り返し学生達が書いたものを眺めているうちに、返事を書きたくなってきた。いや、書きたくなってきたというよりは、「返事を書くべきだ」という気持ちが高まってきた。もちろん、そんな約束もしていないし、義務もないが、受け取ったメッセージには返事を書くべきだと思った。ただ、正直言って52人分の返事を書くのはそれなりに時間がかかるし、何割かについては実質的に返事を書く内容ではない。そこで、M先生に電話をして相談してみた。

M先生は話を聞いて驚いていたが、「もしそうしていただけるなら」ということでこれを聞いて返事を書くことを決めた。ただ、既に前期の授業は終了し、もう講義を聞いたときの学生達が揃うことはない。掲示板等に告知をするが、もらった返事を学生に配布できない可能性があるという。自分は「それでもかまわない」と言った。もちろん、時間をかけて書く以上、ちゃんと読んで欲しいけれども、世の中にも人生にもどうにもならないことは一杯あるのだ。

ということで、読んでもらえるかわからない、講演の感想への返事を書くという夏休みの宿題ができた。