1ヶ月ほど前に、港北の書店で平積みになっていた時代小説の文庫本を手にとってながめていた。その場で買って読む気まではしなかったので、それぎりになっていたけれど、その後同じ書店を訪れる都度気になって探すのだけれど見つからない。覚えているのは、本が置いてあったおおよその場所だけでタイトルも著者も出版社もわからない。売り場の本を全部眺めてみれば見つけられると思って試みたが、途中で頭がくらくらしてきたのでやめてしまった。

同じ本があれば判別できるのだけれど探せない、そんなふうにして時間が過ぎた。特別読みたいわけではないけれど、こうなってしまうと妙に気になって、かすかな記憶をたどって、タイトルの一部から本を検索してやっとそれが何の本かわかった。そうすると不思議なもので、その本はちゃんと同じ書店に置いてあった(平積みではなかったけれども)。

その本は小学館から出ている押川國秋さんの「勝山心中」。吉原の遊女の物語だ。読んでから性同一性障害についてテーマとしてあげていたことを知った。押川さんの本を読んだのは初めてで、ややはいりにくいが丁寧に書かれていると思った。文庫のカバーは、ストーリーについてスポイルしすぎているし、内容もあまり適切ではないような気がする。「面白い」と形容する内容の本ではないが、しみじみとした読後感が残った。僕は良い本だと思う。