地上デジタル

5年前に横浜に戸建てを購入した。地上波とBSのアンテナを設置して、25インチのトリニトロンでテレビを見ていた。数年前のある日、家にケーブルテレビの業者がやってきた。聞くと、家の近くにマンションが建築予定で、そこにマンションが建つと僕の家のテレビアンテナは電波が遮られてしまうため、ケーブルテレビで(有線で)アンテナ信号を送るようにするそれに同意して欲しいということだ。勿論工事の費用は無料となる。僕の家は、影響を受けると思われているエリアの端のほうで、ぎりぎりのところで対象になってしまったようだ。

回答は数日後書面で回収するということだが、考えてみるとほとんど選択肢はない。断ると受信環境が悪くなる可能性があり、問題があったとしても自らそれを選択したことになり自己解決しなければならない。アンテナで受信できないとなると、ケーブルテレビに加入するくらいしか方法がないが、見たいとも思っていないケーブルテレビに加入して基本料金を払うのも嫌だし、それ以上にSTB(セットトップボックス)をつなげないとテレビを見られないというのは避けたかった。提案に同意すれば、ケーブルテレビには加入せず(従って基本料金も支払わず)アンテナ信号だけが有線で配信されるようになる。

結局同意書にサインし、「個人都合ではないので不要になるアンテナについて無償で撤去して欲しい(アンテナ撤去はオプションで約1万円とのことだ)」とコメントをつけて提出したが、アンテナ撤去についてはとうとう何も連絡はこなかった。工事の日、3人の業者の人がきた。家の外にケーブルの信号を配信するティッシュペーパーの箱よりやや大きな装置を壁に「打ち付け」、アンテナからの配線を切断し、代わりにケーブルの装置とBSのアンテナの信号を屋根裏に取り込むよう配線した。最後に各部屋のアンテナ信号の強度を測定しておしまいだ。

一昔前、AVのマニアであればゴーストキャンセラーを保有していたものだ(僕はマニアではないので持っていない)。アンテナ信号から電気的にゴーストを検出して、取り消すことによりテレビ番組をよりきれいに見るための装置で、アナログの機械だからおそらく既に絶滅しているだろう。このときの工事により我が家のテレビはケーブル会社が提供するアンテナに直結したのと同様になり、ゴーストキャンセラーなしでゴーストから解放された。もともと受信状態は悪い方ではなかったが、さらに鮮明になった。それは勿論喜ばしいことには違いないが、なんとなくあまりうれしくは感じられなかった。

その後愛用していたトリニトロンのブラウン管が寿命で壊れ、とても残念だったけれどSONYの液晶のテレビに買い換えた*1。BSの他に地上デジタルとアナログのチューナーを2セットずつ持っているという贅沢仕様だ。そのころは住んでいる地域では地上デジタルの電波が送出されていたが、購入したばかりのテレビでは地上デジタルが映らない。電気屋さんから派遣された業者の方と話し合ったところ、ケーブルのほうでデジタルの信号が送られていないことが原因という結論に達した。自分でアンテナを立てていれば、見られるものが、今やケーブル会社に依存しているためにデジタル放送を視聴できないというのはなんだか嫌な気がしたが、致し方ない。この日からケーブルの信号にデジタル放送の信号がミックスされるのを待つ日々が始まった。

ケーブルテレビから送出されるアンテナ信号にデジタルの信号を混合する形態にはUHFおよびCATVのパススルーの2種の形態があるようだ。僕が購入したテレビは両方に対応しているが、実際にケーブル会社から配信される形態に対応していなかったら、あるいはそもそもパススルー対応のテレビでなければ、万事休すでCATVに加入しSTBのお世話になるしかなかった。CATVからアンテナ信号をもらっているが、CATVに加入(契約)していないので、デジタル放送対応の連絡はもらえなくて、自分で定期的に地上デジタルのアンテナ強度を確認していたが、昨日UHFではなくCATVのパススルーを選びアンテナ強度ではなく、チャンネルスキャンを行ったところ受信できることがわかった。どうも(僕のテレビでは)アンテナ強度はチャンネルスキャンをしてからでなければ計測できないようで、何十回も意味のない作業をしていたようだ(やれやれ)。いつから始まっていたのだろうと思って調べたらケーブル会社のホームページの大変わかりにくいところに、2006年3月から試験電波を発出しますというお知らせがあった(FAQやお知らせではなく、検索機能で検索して見つけた)。ということで4ヶ月のロスはあったが、自宅で地上デジタルが見られるようになった。

僕の家の屋根には、今も不要になり配線を切断されたアンテナがのっかっている。撤去すればすっきりするのだろうが、費用をかけるのももったいない気がするし、「大石電気」という近所の電気屋さんがそのアンテナを設置してくれた時のことが思い出されてそのままになっている。大石電気の人は、大きなお店であれば多分コスト削減で一人で行う仕事を3人で連携しながらとても気持ちよくかつ確実に作業してくれた。実にしっかりとアンテナを固定し、ケーブルのとりまわしもとても丁寧な良い仕事をしてくれた。だからケーブル会社から派遣された人がアンテナの配線を邪険に切断したときは、少し胸が痛んだし、切断されたままのケーブルの端がぶら下がっているのを見ると今も大石電気の人に悪い気がする。

*1:僕はテレビとウォークマンソニー以外の製品を買ったことがない。