レボリューション・イン・ザ・バレー

レボリューション・イン・ザ・バレー ―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏

レボリューション・イン・ザ・バレー ―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏

「開発者が語るMacintoshの舞台裏」という副題がつけられたこの本を読んでみた。開発に携わったメンバーの短いエピソード*1をまとめた構成となっている。写真でわかるように変形版、フルカラーで318ページあるが、なんとなく読みにくい本だ(わかりにくいとかつまらないという意味ではない)。一度に通して読めるような本ではなく、少しずつ読み進めて今日やっと読み終わった。

もともとは、プロジェクト運営の参考にしたいと思い読み始めたのだが、限られた数の著者が異なるエピソードからはその目的はあまり果たせなかった。主観が入ってしまうにしても、単一の著者が主要な出来事を網羅した、たとえば「闘うプログラマー」のような書籍のほうが目的には適っているだろう。しかし、三分の一くらいまで読み進んでから、含まれているエピソードにどんどん引き込まれていった。そこには、断片的ではあっても、Macintoshというコンピュータが生まれるまでの開発者しか知らない事実が含まれている。Macintoshは、思っていたよりもずっと、小さなプロジェクトで、時間的にも機能的にもぎりぎりの線をたどって、一種奇跡的に誕生したということがわかった。

特に印象に残った部分をあげると、

  • Macintoshの初期の設計(たとえば最初からシングルタスクで使うことしか考えていなかったことや、なぜSonyのドライブを使うことになったか etc.)
  • Bill Atkinson(QuickDrawの作者、現在は自然写真家)やSusan Kare(アイコンデザイン)、Andrew Hertzfeld(原著の著者でありThunderscanなどの開発者)などの異能のメンバーによる素晴らしい仕事
  • Steve Jobsという人物

Steve Jobsについて、これまで自分の中ではやり手のマネージャ、プランナーという程度のイメージしかなかったが、この本で紹介されているエピソードを読んで認識をおおいに改めた。基本的にひどいマネージャだと思うが*2、それだけではなく、独特の美意識、こだわりを持っていて、おそらくメンバーにあまり好かれてはいなかったのだろうけれども、Macintoshという革新を可能にした中心人物であることが理解できた。Andrew自身も本の最後で「Macintoshの父親は誰かと聞かれたら、自分はSteve Jobsをあげる」と書いている*3

この本の魅力は実は上に書いただけではない。フルカラーで紹介されているMacintoshの写真や、画面のハードコピーなどが、とても「美しい」。モノクロのちっぽけなディスプレイにただ表示されている"hello"が、Macintoshの筐体自体が、ツールボックスのパレットが、ただただ美しく、見とれてしまう。

*1:それらのエピソード(英語原文)は、http://www.folklore.org/index.pyで参照できる。

*2:書籍の中には2度ほどビル・ゲイツが登場するが、ビルはSteveどころではなく、とんでもなくいけすかない野郎だと思った。

*3:Andrew自身、Steveにひどい目にあわされているにもかかわらずにもだ。