初めての同時通訳つき講演

生まれて初めての海外旅行と大きな会議での発表は、ミュンヘンで開催された今はなきEUUG (European UNIX Users Group)での発表で、もう15年以上も前のことになる。そのときから今まで、変わっていないことのひとつは発表練習をしないことだ。ビジネスシヨウの講演でも、今年行ったOLSでも、勿論今回のPacSecも同様だ。話す言葉を事前に考えたりはしない、その場で、その状況で一番良いと思う内容を考えて話をする。事前にメモを作ったりはしないし、タイミングも計らない。それなりに場数を重ねたこともあり、今では内容によってかかる時間がわかるし、それを「講演しながら」時計を見ないで調整することができるようになった。一種の体内時計だ。

今回の講演で自分にとって新しかったのは、有料の講演であることと、同時通訳がついていることだった。別に理由はないのだけれど、一度無料でない講演で(参加費用を払ってきている人たちに)話がしてみたかった(笑)。同時通訳付きの講演を聴講したことは何度もあるけれど、自分で話すのは初めてだったので、日本語で話をしてそれを英語に通訳してもらうことにした。スライドを英語で書き下ろしているわけだから、勿論英語でも説明できるのだけれど、通訳の方のほうが表現も発音もネイティブの参加者に聞きやすいだろうと思ったし、日本人の自分が国内の会議で英語で話をするのに違和感を覚えたのが理由だ。

同時通訳があることによって、今回の講演の進行には通訳の方の発言という新しい要素が加わった。別に事前に考えていたわけではないけれど、自分が通訳してもらいたい単位(ブロック)で話をしたら、その通訳結果を待って、次の言葉を出すようにした。そのため耳には同時通訳のレシーバーを装着していた。話す言葉と内容、タイミングは、説明のストーリーに沿いながらも極力通訳の方が訳しやすいように調整し、また訳しにくいと思われる言葉を言い換えるなど心がけた。レシーバーから聞く言葉から、翻訳の解釈に迷っていることがわかったときは思わず、「そう、XXXです」など独り言をしてしまったので、日本語で聞いていた人はおかしく思ったかもしれない。、一時間の講演だが、同時通訳は途中で何度か交代する、そのタイミングも意識して時間を調整した。ということをスライドを説明し、PCを操作し、聴衆の反応を見ながら行い、セッションは多分55分くらいで終了した。質疑は直接英語にしようかとも思ったけれど、最後まで講演と同様にした。受けた質問は、「あなたの会社では、そのTOMOYO Linuxは活用されているのか?」という内容だった。「それほどでもない」と答えること、「それは何か理由があるのか、会社のポリシーか?」と妙にしつこい。「当社のメインのドメインは日本国全体のクレジットや銀行などオンラインのシステムがメインで、LinuxOSSはまだ取り組みが始めたところ」と答え、なんとか納得してくれたようだ。何故そのような疑問を持ったのかが興味あるが、確かめることができなかった。

今回の講演では、TOMOYO Linuxの2つのデモを挿入したが、デモについてはVMwareでムービーを作成しておき、それをPowerPointに埋め込んでおいたので(公開した資料のPDFでも再生できる)、デモ自体は全自動で進行した。時間に余裕があれば、自動で見せた内容を「その場で」生で実演するつもりだったが、進行と聞いている人の様子から言いたいことが伝わっていることがわかったので、それは行っていない。

こうした事情があったから、講演が終わって通訳の方にお礼を言おうとしたときに、「ものすごく通訳しやすかったです」と話しかけれらたことはとてもうれしかった。それにしても今回のPacSecの講演の通訳をされた方は、発音がすばらしかったし、レスポンスも早く、他の講演者の技術的な用語もそつなくこなしており、感服した。