30年ぶりに

学年は覚えていないけれど、中学生のときだったと思う。友だちから500円で映画のチケットを譲ってもらった。それまでも映画館に行ったことはあったけれども、両親と一緒で作品は東映漫画祭りとかそんなのばかりだったから、もし見に行っていたら、きっと自分で見に行った人生最初の映画になるはず、だった。

「だった」というのは、結局僕はその映画を見に行けなかった。両親が子供(中学生)が見るような映画ではないと言って、止められたからだ。その映画のタイトルは、ジャック・ニコルソンが主演する「カッコーの巣の上で」だった。Wiki pediaによると、この映画の日本での公開は1976年の4月というから、今から34年前のできごとになる。

そのとき、両親がどのように僕がその映画を見ることに反対したかは、今はもう覚えていないけれど、どんな表情だったかはぼんやりと記憶に残っている(もっともそれがどれだけ正確かは確かめようもないのだが)。インターネットもなければ、パソコンも持っていないし、映画雑誌を読んでいたわけでもないから、映画の詳しい内容は知らなかったわけだが、それが通常の娯楽映画ではないことは自分は知っていたし、両親と一緒に暮らす中学生の自分には反対を押し切って映画を見に行くという選択肢はなかった。だから、結局「カッコーの巣の上で」を見に行く事はなかった。チケットは、もちろん今は手元にないが、そこで使われていた写真は今も自分の記憶に残っていて、ジャック・ニコルソンの横顔と背景の空の青さを覚えている。そうして、「カッコーの巣の上で」は自分にとって特別な意味を持つ映画になった。

それから30年以上の時間が過ぎて、僕は高校、大学に進学して、神奈川で仕事を得た。「カッコーの巣の上で」は、言うまでもなくアカデミー賞も受賞した名作であり、僕が独立して自由に好きな映画を見られるようになってから、何百回となく見る機会はあった。実際TSUTAYAで手にとってまさに借りようとしたこともあったけれど、いつも最後のところで自分の中で何かの力が働き、それを棚に戻していた。それは、自分にとってあまりに特別な存在、特別な映画になっていた。

少し前に、ついにその映画を見た。30数年ぶりで見るその映画は、評判に違わぬ名作だった。主演のジャック・ニコルソンを始めとするキャスティングは、二度と忘れられない素晴らしい演技をみせていた。映画を見終わってから、僕は「もし自分が中学生のときにこの映画を見ていたらどう思っただろう」と考えた。また、両親はどう思って、この映画を中学生の自分に見せたくなかったを考えてみた。両親は、おそらくもうこの映画のことも、それを見るのをとめたことも覚えていないだろう(なにしろ30年以上も前の出来事だから)。だから、そんなことを考えても何の意味もないのだけれど。

カッコーの巣の上で [DVD]

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