昨年、ポートランドで開催されたLinuxCon 2009で発表を行った。会議で発表を行うことには、意味と目的がある。自分にとって、LinuxCon 2009の発表は、プロジェクトマネージャというプログラムを書かない立場からできる貢献(と言うと大げさだから恩返しくらいかな)のつもりであり、会社としては、Linux Foundationが主催する初めての開発者以外に門戸を開けた会議で発表を行うことのアピールのつもりだった。

講演のテーマは、「企業にいながらオープンソースのプロジェクトマネージャの活動」で、それを「同じ会社にいながら、あたかも宇宙に行って作業しているようなものだ」とたとえた。それを当時興味を持っていたアポロ計画にからめてまとめている。1枚入れたかった絵は、同じ職場で働いている様子をテレビの番組で見ているシーンで、それは取り組みの成果や達成について、直接理解することができなくて、メディアなどの報道から間接的に計るしかできないという意味だ。他の講演すべてがそうであるようにLinuxCon 2009の講演も自分にとって、完全なものではなかったが、企業にいながらオープンソースに関わる、それも「マネージャとして」ということの本質を確かにつかまえていると思っている。

LinuxConから帰国してすぐ後には、こちらも第1回開催のJapan Linux Symposiumが控えていて、海外さんとBoFを1件持った他に、自分自身で「失敗から学ぶカーネル開発」と題して発表を行った。この発表は、「カーネル開発者の参考に」というように見えるが、実はそうではなく、TOMOYOメインライン化について関係者への謝辞になっている。

自分としては、内心この2本の発表でもういい加減講演は卒業にするつもりだった。ロケットの打ち上げのように、ひっそりと開発したソフトを提案できるところに持って行くまでには、力がいる。しかし、一度宇宙空間に到達したら、そこから先は、基本的にはコードだけで良いはず、そう思っていた。もちろん事業化というような活動には、プロジェクトマネージャの出番があるが、そこではメインライン化提案のために行ってきたような講演は必要ないはずだった。

ということで、今年は、「出張費用がかからないLinuxCon Japanくらいかな」と思っていたが、「それはもう良いでしょう」と言われたので、なんとなく後ろめたい気がしながら見送り、2回目のLinuxConもそうするつもりだったが、CFPの期日数日前に、Linux Foundationから「みんな提案してね」というメッセージが届いた。短いけれど、なかなか気持ちの伝わるメッセージで、それを読んでつい提案を投稿してしまった。もともと提案するつもりもなかったし、見直す時間もなかったので、ほとんどぶっつけ本番。多分、だめだろうと思っていたら、案の定「残念ながら」の通知を受け取った。

ところが、5月3日にLinux FoundationのCraig Lossから、「いやー、悪い。あなたの分の結果が反対(toggle)していたようだ。今からでも発表してくれるかな?」とメールがきた。もともと発表したかったわけではなく、準備も考えると気が重いが、「個人的にはYesだけど、会社に確認してみるから時間をください」と返し、報告した。すると、思いもよらない方向からの返答があった。「どうして、LinuxConですか?」と言うのだ。確認すると、この「どうして」は、「どうして、Red Hatがスポンサーに入っていないような」の意味だった。逆に言えば、「Red Hatの目にとまり、ディストリビューション搭載に影響を与えるようなところで発表しなさい」ということだ。

言われてから調べてみたが、確かにRed HatLinux Foundationの主催する会議のスポンサーをしていない。自分が、LinuxConを選んだ理由は、「Linux Foundation本家が主催する」ということにつきるが、その考えが通用しないと、話は実に難しい。「Red Hatに影響を与える」会議があれば、「LinuxConは見送って、そちらで」ということになるが、それが思いつかない。そもそもRed Hatが主催、スポンサーをする会議で発表したとしてそれが、RHEL搭載にみじんでも影響を与えるかははなはだ疑問だ。もう、これはRed Hatの中の人に聞いてみるしかないと思って、メールで質問してみたが(読んでみると我ながら馬鹿な質問だ)、まだ返事はきていない。実は、メインライン化した後に同じ質問をRed Hat Japanの人に尋ねているが、それは結局返事が来なかった。もしかしたら、「危険思想」の持ち主としてフィルタリングされているかもしれない。

それはともかく、「ここなら良いです」とか「だからLinuxConです」ということを言えないまま、対応は保留となり、いたずらに日々が過ぎている。このまま返事をしないで放置するとそのうちプログラムに載りそうで困るが、回答なしで黙って落としてくれるかもしれないなどと考えながら、過ごしている。発表するでも、しないでもどちらでも良いのだが、決めるべき人が決めてくれないから動けない。いったい、どうなるのか自分でもわからない。まさか、conなことになるとは。